推理法
「ひとつの仮説を立て、その仮説ですべての事実をうまく説明できるのであれば、その仮説は真実からそう遠く離れてはいない。」
この台詞こそルパンの推理法を集約したものでしょう。
「そりゃあ僕ぁ他人の財産に関しては少しばかり変わった考え方を持っているがね。しかし自分の財産に関してはまったく一般的な考え方を持っているんだぜ。つまり、一切手出し無用、だ。」
これはルパンがフランスの警察に関する話の続きでいった台詞です。
ルパンは隠し金庫などを探すのにも、部屋中を探し回るよりも頭を使って考え、目的のものを見つけ出すのを好みます。しかしその一方で、時には考えるのを止めて直感に従って行動するほうがいい事もある、とも言っています。
怪盗紳士というくらいですから普段のルパンは追われる方、警察・探偵の推理を煙に巻くほうなのですが、実際に小説に書かれた中ではむしろより悪辣な犯罪者を追う立場であることのほうが多いのです。
『八点鐘』や『ジム・バーネット探偵事務所』はそのままルパンが探偵役として活躍する話ですし、ヴィクトール刑事やルノルマンなど、警察内部に入り込んで犯人逮捕に乗り出す作品もあります。
特に短編に本格的な推理ものが多く、『八点鐘』中の「水瓶」のトリックなどは特に傑作といわれます。
『奇岩城』『太陽の戯れ』など、暗号法を扱った作品も多く、物語への取り込み方も優れています。
『金三角』『緑の目の令嬢』『カリオストロ伯爵夫人』など、『宝捜し』をモチーフにしたものも多く、ルパンシリーズがミステリよりはサスペンス・冒険活劇のジャンルに振り分けられることの多い所以でしょう。普段お目当ての品がどこに隠されてるかを探し当てる目を養っている怪盗らしさが生かされるからでしょうか。
『水晶の栓』は、可愛い部下ジルベールが殺人の疑いをかけられ死刑になりそうなのを救う、という筋のものですが、これも事件の焦点である『水晶の栓』の奪い合いがメインになりますが、これもある意味『宝捜し』ものといえなくもないでしょう。最終的にジルベール無罪を確定するのは、被害者の今際の際の告白を書いたノート名のですが、これをルパン自ら無実を証明して見せれば「本格」っぽいのになあ、というのが少しばかり惜しいところ。
ところで、この作品中、ルパンも敵役のドーブレックも私立探偵を雇っています。ルパンが依頼したのはドーブレックの身元調査、ドーブレックが依頼したのはヒロインの尾行。この時代でも実際の私立探偵は、やっぱり現代の興信所と似たような仕事がほとんどだったのでしょうか。
ところで、日本のミステリ界で今をときめく京極夏彦氏の作品に「泥田坊」という短編がありますが、このトリックが『八点鐘』の「テレーズとジェルメーヌ」のトリックとよく似ています。直接的な影響があったかどうかは判じかねますが、江戸川乱歩がルブランの影響を受けたのはよく知られているところですが、ひょっとしたら京極氏もルブランの影響を受けた作品を物したかもしれない、と考えるだけでも、双方のファンである私にとってはわくわくせずにはいられません。
何はともあれ、ここらで「サスペンス」「冒険小説」としてだけでなく、「推理小説」としてルパンシリーズを見直してみてはいかがでしょうか。
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