ルブランから見た外国

ロシア


ルパンは好んで、ロシア貴族に化けました。 そこには、外国人の方が身元を詮索されにくいという実際的なメリットもあったでしょうが、 ルブランがロシア人に対して比較的好意的で あっただろうということも伺われます。

実際、1891年、ロシアとフランスは同盟を結んでいます。
19世紀末、多くのロシア貴族がフランスを訪れ、 モンテスキューに関するフィリップ・ジュリアンの評伝に拠れば 「ロシアの皇孫たちがマクシムを満たし」ていたといいます。

当時の露仏関係については私自身より一層の勉強が必要なところですが、 両国の距離の遠さが警戒心を弱めた為か 同じ同盟関係にあるイギリスと比べても、ロシアに対しては友好的な風潮があったのではないか という印象があります。

チェーホフの戯曲などを読むと、 いたる所でフランス語やフランス文化への言及が出没し、 ロシア人たちがフランス社交界に強くあこがれていたであろうことが伺えます。

ルブランのロシア観を探るよすがとなるのは、 もう一つ、舞台劇としてかかれた「アルセーヌ・ルパン」 (邦題「ルパンの冒険」「消えた宝冠」)のヒロイン、 ソニア・クリスチモフの存在です。

儚げで不幸な境遇にある女性、というのはルパンのマザ・コンに由来するお決まりのタイプの一つですから、まあ不問にして構わないと思うのですが、
特記すべきは彼女が貧しさゆえに盗みを覚えた女賊だ、という点です。

ルパン・シリーズには、女賊もさして珍しくはありません。カリオストロ伯爵夫人、青い目の貴婦人、「地獄の罠」にも女賊が出てきます。 しかし、彼女達は貧しいために盗むのではありません。

ソニアだけが、今は忌まわしい病気、悪癖の為であってももともとは貧しさの為に盗みを始めた唯一の女賊です。
ルブランは、ルパンの盗み、皮肉な言動を通して貴族達やブルジョワジーたちに批判のまなざし、皮肉のまなざしを向けてきました (そこには憧れも混じっているようにも思えるとしても)。
そうして、ソニア・クリスチモフという存在を通して、パリで豪奢を競うロシア貴族達の影に、貧しさに苦しむロシアの民衆のあることを知らしめ、 ロシアへの同情を明らかにしたのではないでしょうか。
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