ルブランから見た外国
イギリス
イギリスといえばやはり、シャーロック・ホームズである。
ホームズに代表されるように、当時のイギリスはフランスにとって 目の上のたんこぶ、煙たい存在だったのではないだろうか。
ルブランがコナン・ドイル自身を非常に意識していたのは確かだが、 ドイルに限らず、フランスのライバルであるイギリスをこき下ろしてやりたい
という欲望が見え隠れしている気がする。
もう一つ、非常に印象的なのが、『緑の目の令嬢』のワンシーン。 ルパンがはじめて青い目の貴婦人とであうシーンである。
喫茶店でルパンは青い目の貴婦人を見る。 なかなかの美人、と思って眺めていると、 トーストを2枚平らげ、(カフェオレではなく)紅茶をガバガバ。
「う〜ん、流石イギリス女性だ!」
翻訳の問題もあるのだろうが、 そうか、それがイギリス観なのか、と変に納得してしまった。
ルパンの活躍した時代を通じて、 フランスとイギリスは寧ろ友好的な関係を続ける。
ノルマン王朝、プランタジネット朝とイギリス王家はノルマンディーをそのルーツに持つ。
フランス出身の王によって多くのフランス語がイギリスに持ち込まれた。
帝国主義の最潮期に在って繰り広げられた植民地争奪で 両国は1989年ファショダ時件を起こすも、フランスの譲歩で解決。
その後1904年には英仏協商を結び、第一次世界大戦では陣営を同じくする。
ルパン対ホームズが1906年、奇岩城が1908年初出だから、共に英仏協商成立からまもなく、
共にドイツ帝国の脅威に向かって手を組んだ、とりわけ友好的な期間といっていい。
だからこそ、フランスの事件の解決にイギリスの名探偵の手を借りるという設定も可能だったのだろう。
しかし、それでもフランス人達の中には、植民地政策でフランスを凌駕し、
ファショダ事件でも譲歩せざるを得なかったイギリスに対し コンプレックスを抱く人もあっただろう。
ドイツに対するほどの憎しみは勿論なかっただろうが、 ジャンヌ・ダルクの恨みがあり、トラファルガー/ワーテルローの屈辱がある。
ロシアに対するよりも親愛の情は薄かったのではないか。
『奇岩城』において、ガニマールがイジドールにこんなセリフを吐くシーンがある。
「あのイギリス人の鼻を明かしてやったら気分がいいとは思いませんか?」
ここでいう「あのイギリス人」とは ホームズを指している。 実際、イギリスそのものと置き換えてもルブランの心情は同じであったのはないか。
ルブランは非常にしばしば、ホームズを「あのイギリス人」と呼ぶ。
ルパンの引き立て役にするために、ホームズを余りにも虚仮にした、ということで、ルブランはしばしば非難をされている。
ミステリ作品としてルパン以上の成功を納めていたホームズへの嫉妬、ドイルへの嫉妬も勿論あっただろうが、
ルブランがホームズをやりこめたのは、イギリス人の代表としてでもあっただろう。
その証こそ、この「あのイギリス人」という表現ではないだろうか。
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